「こんな風に思ってしまうのは、自分だけなのかな?」
ふとした瞬間に、そうした孤独感に苛まれることはありませんか? 今回ご紹介する町田そのこさんの『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』は、そんな思いに苦しめられたことがある人に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
この本は、あなたの心の奥底に優しく寄り添い、「あなたも大丈夫」と静かに語りかけてくれるでしょう。
生きると決めた人々の、しなやかな強さ
町田そのこさんのデビュー作である本書は、心に傷や孤独、痛みを抱えながらも、「どんな場所でも生きると決めた人々の強さ」を描いた5編の連作短編集です。それぞれの物語の主人公たちは、特別な力を持っているわけではありません。しかし、彼らが人生の中で見つけ出す、ささやかな光と希望の物語は、読む人の心を強く揺さぶります。
今回は、特に私の心に深く刻まれた2つの物語をご紹介します。
「生きよう」と強く心揺さぶられた物語:波間に浮かぶイエロー
「もう何もかも嫌だ」と、すべてを投げ出してしまいたくなった経験はありませんか?
私はかつて、自分の気持ちは痛いほどリアルに感じられるのに、周りの人の気持ちは靄がかかったように不鮮明にしか想像できず、孤独に苛まれることがよくありました。
『波間に浮かぶイエロー』は、そんな私にとって、あまりにも衝撃的でした。
この短編の冒頭を読んだとき、私はなかなか先に進むことができませんでした。なぜなら、そこには「置いて行かれる側」の、あまりにも痛切な心情が描かれていたからです。自分の心の痛みにばかり囚われていた私に、この物語は「生きていなければいけない」という強い感情を呼び起こしました。
今でも、心が沈みそうになると、私はこの話を思い出します。この物語との出会いがなければ、今の自分はなかったかもしれない。この話との出会いに救われているといっても過言ではありません。
「私だけじゃない」と心を落ち着かせてくれる物語:溺れるスイミー
ふと、どこか遠い場所へ行ってしまいたくなる衝動に駆られたことはありませんか?
いつもの通学路を大幅に遠回りしたり、電車に乗ったまま、目的地を過ぎてどこまでも行ってしまいたくなったり…。実際に行動する勇気はなくて、理性でどうにか日常をこなしていたけれど、心と体が重く、足取りがどうしても進まない日もありました。
「こんな衝動に駆られるのは、私だけなのだろうか?」
そう思っていた私にとって、『溺れるスイミー』との出会いは、胸につかえていた重荷が降りたような安堵をもたらしてくれました。この短編には、私と同じような衝動を抱える人物が3人も登場するのです。
小説の中の出来事だと分かっていても、「ああ、私だけではないのか」と、なんだか自分の気持ちを認められたような気持ちになりました。誰にも言えなかった心の叫びを、この本が代弁してくれたような感覚。そのおかげで、不思議と心が落ち着き、自分を穏やかに受け止めることができるようになったのです。
暗闇のなかで光を放つ、希望の物語
この本に登場する主人公たちは皆、何か一つ、心の支えを頼りに日々を懸命に生きています。
「しんどいな」と思うことがあっても、縋れるものが一つあればいい。生きる理由が一つでもあれば、大丈夫。
そう、この本は私たちに教えてくれます。
「もうここでは生きていけない」と思ったことがあるあなたも、ぜひ『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』を開いてみてください。登場人物たちのしなやかな強さと、そこに見つけ出される穏やかな希望が、きっとあなたの背中を優しく押してくれるはずです。
この本が、生きることに疲れてしまったあなたの助けになることを、心から願っています。
自己紹介と、ブログを始めた動機や私が思う本の魅力について書いた記事です↓
こちらもぜひのぞいてみてくださると嬉しいです!

コメント